2013年春夏 パリ・ミラノ出張

ミラノ編 ・1日目

 

11月29日(木)私は2013年秋冬コレクションの素材調達のために、パリ経由ミラノに向かった。

 

今回ミラノでは、有名デザイナーがハンドリングしているホテルを東京で予約していた。ホテルに到着して思ったことは、インテリアを始め、スタッフのユニフォーム、システムなど大変スタイリッシュで、私もデザイナーとして創作意欲が触発される。これまでとは違った意味で楽しいミラノ滞在になるのでは・・、そう思いながら、明日のスケジュールに備えて早めに就寝する。

 

11月30日(金)10:30amにミラノの素材工房に向かう。到着するとファビオが温かく迎えてくれ、旅の疲れが癒されホッとする。スタッフも皆、顔見知りでアットホームな感じがとてもよい。

 

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ミラノの素材工房のスタッフと一緒に・・。

 

カプチーノをご馳走になりながら、素材を眺めているうちに、2013年春夏コレクションのテーマである、「印象派へのオマージュ」としてのイメージがわいてくる。ピンク・ブルー・グレーのカラーの三本の柱が浮き出てくる。さらに、ゴッホのアルルでの作品「夜のカフェテラス」と「ローヌ川の星月夜」のイメージを加味し、ダークブルーとイエローの素材を選別した。来年の2月にお客様に披露するコレクションを思い浮かべながら、一点一点吟味して素材を選ぶのは楽しい作業である。時間の経つのは早い・・、ほぼ2時間余りでコレクションの素材を選別し、メーター数等を決め、輸送の手続きを整える。

 

イタリア経済も決して予断を許さない状況ではあるが、ファビオを始め、イタリア人スタッフと話をしながら、美しいものをクリエートする喜びは、国籍や時代がどのように変わろうと不変であると実感した。又、来年会うことを約束して工房を後にした。

 

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ミラノ・マンゾーニ通りで・・。

 

外に出ると、寒風が頬に冷たく当たる。そこでいつものオープンカフェの奥の2階の部屋で昼食を取ることにする。料理を注文した後、窓際に座っている美しいセニョリーナを見ながら、ふと思った・・。日本は今、必要以上に自信を無くしているのではないだろうか・・。ヨーロッパを訪れるとグローバルな世界が見えて来て、それは常にダイナミックに動いていることを実感する。一刻も猶予はないとも感じるが、だからと言って焦る必要はない。何故ならば宇宙の秩序に沿って、新陳代謝は常に起こる。発展する国、衰退する国、挑戦している国、戦いに勝つ国、敗れる国。それぞれの都合とは裏腹に、宇宙のリズムに沿って、時代は動き流れる。それらを全て受け入れ、粛々と生きることであろう。それが今、私たちに与えられている唯一の知恵ではないだろうか・・。

 

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ミラノの瀟洒なホテルレストラン。

 

新しい時代の到来は、必ずその前に、混乱や一時超えられないような壁に遭遇することがある。つまり、今までのやり方では進めないと感じる状態である。しかしながら、私は40年間、こうして世界中を回って素材を選別して、お客様の喜ぶ顔を思い浮かべながらオートクチュール活動を継続してきた。

その都度、自然にどこからともなく新しい道が示され、それに沿って歩むうちに、次なる世界が見えてきた。あきらめないことである。常に道は「開かれる」ものなのである。

そう思いながら、出された「コトレッタ アッラ ミラネーゼ」(ミラノ風カツレツ)を頬張った。

 

パリ編

 

12月2日(日)ミラノを後にしてパリに向かう。パリでの定宿のホテルに着くと、いつものようにポールからのメッセージが届いている。電話をしてパリ滞在中のスケジュールを調整する。

 

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ジャニー家での会食の後。

 

12月3日(月)久しぶりにジャニーの家のディナーに呼ばれることとなった。実は今年の6月、ポールの家にフランスの友人たちが大勢集まり、コージアトリエの40周年を祝ってくれた。ポールがその時、私のために全精力を費やして料理を作ったので、今回はジャニーに任せたというのである。本当に有難く、心優しいフランスの友人たちである。感謝!感謝!に尽きる。

7時過ぎにジャニーの家に着くと、ポールとアニーがすでに来て待っていた。いつもながら、お互いの家族の話など、そして現在のフランス経済のことなどを話す。日本の経済も決して好調とは言えないので、お互いに良かった時代のことを懐かしく話してしまう。

 

又、パリではマヤ文明の暦が終わっていると言われる12月21日、世界の終焉を多くの人たちが信じているそうである。日本も一時話題になったこともあるが、今はそれほど言われていないと伝えた。でも、何かが変わる前兆なのかもしれない。これまで当たり前であった何かが変わるのではないか・・。そして、新しい時代が訪れるのでは・・。

 

ジャニーの心温まるディナーの後、9月の40周年記念コレクションの時、東京のお客様にお渡しした、私のデザイン画入りのバッグを皆にプレゼントしたら大変評判がよく、ぜひともパリで店を開いたらという話が出て、大変盛り上がった。又、ポールの写真と記事が掲載されている40周年記念パンフレットもとても好評で嬉しくなる。そして、彼とオートクチュールをスタートした当時のことを想い出しつつ、将来のことも話題になった。

 

今ではパリもオートクチュール全盛の時代はすでに終わり、プレタポルテから今ではファストファッションの時代である。銀座で40年継続しているオートクチュールをこれからどうやって次の時代へ継承してゆくか・・?クラシックな魂を新しい魂にゆだねるということは・・。これまで培ってきた素晴らしいお客様を大切にするプロセスの中に、新たに育まれる魂に響くデザインのヒントは・・。そんなことを話しているうちに、パリの夜がふけて行った。

 

 

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ギャラリーラファイエットのクリスマスツリー。

 

12月4日(火)午前中、新しい生地工房が見つかり、そこを訪れる。

なかなかビビッドな生地がそろっていてとても良い。時代の要請に沿った、新しい感覚の素材が多く展示されている。一点一点慎重に選別して行く。印象派のゴッホの作品へのオマージュに相応しい生地が見つかり購入する。この生地を使ってワンピースにしようか?それともブラウスとスカートのセパレートにしようか・・、このように迷うことも楽しい作業の一つである。

 

私はいつもそうだが、気に入った生地が見つかると途端に元気になる。単純といえば単純だが、これで40年来たと思うと、さしずめ間違った感性ではないと思う。やはり、楽しい気持ちで創った作品は、お客様にも伝わると思うし、それが、デザイナーとしての生きがいかもしれない。

 

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セーヌ川・バトームッシュの船上で・・。

 

3:00pmにポールとジャニーとホテルで待ち合わせて「印象派とモード」展のオルセー美術館に向かう。ポールが事前に切符を調達していてくれたので、待つことなく中にスムーズに中に入れた。オルセー美術館は、世界中のお客様が来ていて相変わらず盛況である。

 

「印象派とモード」展 今回の「印象派とモード」展は、印象派の画家たちの作品を通して、19世紀の後半の華やかなファッションの世界を具体的に紹介してくれる展覧会である。彼らは、それまでの写実主義とは違い、日常の市民生活に着目し、都市や郊外の自然の中で、当時の新しい近代的なライフスタイルを享受する人々を好んで描いた。そして、この展覧会の特色は、それらの人々の「装い」に焦点を当て、19世紀後半にかけてのモードの変遷を読み解いてゆく。

 

デザイナーとしては願ってもない展覧会である。血沸き肉躍るとでも言ってよいだろう。というのは、時代の流れと共にモードが息づき、絵画としての芸術と見事なハーモニーを見せているからである。実際に展示されている服飾作品と共に印象派の名画は光を放ち、そのストーリー性を身近に感じさせてくれている。このファッションはこういう人々が、こういうシチュエーションで、こういうオケージョンで着ていたのだと、具体的に理解できるからである。

 

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オルセー美術館に行く前に・・。

 

 

19世紀後半、勿論、今もそうであるが、パリは世界の流行の発信地であった。当時のフランスではブルジョワジーが台頭し、社会の中心なりつつあった。百貨店の開店によりファッションブランドが急増し、それと共に繊維産業も発展した。印象派の画家たちの多くは有産階級の出身で、家族や友人たちを好んで描いた。 マネ、モネ、ルノワール、デガ等、日本ではなかなか見られない巨匠の作品が、パリ本場の服飾作品と同時に身近に見られると云う、何とも贅沢な展覧会である。

 

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「印象派とモード」展のパンフレット。

 

ルノワールの父は仕立屋であり、母はお針子と云う家庭に生まれたゆえに、生地を身近に見ていたこともあり、洋服の描き方がとてもうまい。つまり、素材の質感が手に取るように見事に表現されている。 絵画を通じて見る人に届けられるファッションの世界はとても多彩だ。昼間の装いから、晴れやかな場で着るドレス、アクセサリー、帽子やアンダーウェア―に至るまで、その魅力を幅広く紹介している。又、男性のファッションも展示され、私にとっても興味深い。

 

重ねて言うが、印象派の名画を鑑賞しつつ、その時代の衣装を通して、ファッションも同時に楽しめるというところが、この展覧会の一番の魅力である。 ファッションは時代と共に移ろいゆくものではあるが、時代の息吹と密接にかかわり呼吸しているのだと実感した。モードは単に気まぐれだけで生まれるのではなく、人間生活の中で、その時代の空気を具現する大切なツールであると理解した。

 

今回のコージアトリエ春夏コレクションのテーマは「印象派へのオマージュ」である。パリ・セーヌ河畔の風が心地良い季節に、静かに溶け込む印象派の作品を通して未知なる時代を予見し、さらに、フランス・アルル地方のローム川で魂の解放を果たしたゴッホの作品へのオマージュとして創作したコレクションである。

 

どうぞ、お楽しみに・・。

2013年1月7日

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